<12月のマスコミ論調>◆「都知事の辞任」の社説を読む

医療法人徳洲会グループから5000万円を受け取っていた猪瀬直樹東京都知事が、都議会などの追及をかわせなくなり、辞職表明に追い込まれた。18日深夜に一報が流れたため、在京各紙のほとんどは20日朝刊でこの問題を取り上げた。どの社説も猪瀬氏がなお説明責任を果たしていないことを厳しく指摘した。各紙の論調が足並みをそろえるのは最近では珍しく、それだけ記者会見を含め、問題発覚後の猪瀬氏の釈明が、大方には受け入れ難いものだったことを示している。

19日の朝刊でこの問題を取り扱ったのは産経1紙だけだった。もともとは、猪瀬氏の政治責任を論じる社説だったのを、「辞職の意向固める」というニュースを受け、急遽手直ししたもののようで、産経は20日朝刊でも後任選びをテーマにした社説を掲載した。

産経の19日の社説で目を引いたのは、東京電力病院売却と5000万円の関係について「徳洲会側から東電病院取得の意思を伝えられていたことを事実として一連の流れをみれば、汚職事件の要素である、職務権限も請託も現金授受の事実もそろうことになる」と踏み込んだことだ。東電病院問題については、他紙も「5000万円の授受をめぐりきな臭さが漂う」(毎日)、「5000万円の意味合いが有利な取り計らいへの対価だったとすれば収賄の疑いさえ出てくる」(東京)、「東京地検特捜部には、5000万円疑惑についても詳細な解明を求めたい」(読売)と触れたが、産経ほどではなかった。

社説の多くは「5000万円授受」に絞らず、「政治とカネ」の問題として猪瀬氏と徳洲会の関係を取り上げた。「選挙の前から利害関係者とカネをやり取りし、発覚後も言い逃れを二転三転させた。その姿は旧来の政治家の姿と変わらなかった」(朝日)、「手にした5000万円を『個人的な借入金』と言い張る猪瀬氏の姿は、水面下で桁違いの〝裏のカネ〟が広くばらまかれた疑いをかえって抱かせる」(東京)という具合だ。

日経はこうした指摘をしつつも、後任知事について行数を割き「五輪に向けた準備を遅らせるわけにはいかない」と「五輪の顔」を意識したものになっていた。

猪瀬氏の辞職表明を受けて、東京都議会は百条委の設置を見送り、議会としてこの問題は取り上げない見通しだが、これには毎日が異を唱えた。「百条委設置は辞職に追い込むのが目的ではない。有権者に真相を示すために百条委での調査は必要だ」というのだ。正論だろう。それなのにこの問題に他紙が触れなかったのは残念だった。