◆南海トラフ巨大地震対策

国の中央防災会議の作業部会「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(WG)が最終報告を公表した。具体的な対策をまとめたもので、ポイントは南海トラフ沿いを震源にするマグニチュード9クラスの巨大地震が発生する時期・規模の予測は困難と明言し、事前対策の徹底を「事前防災」という表現で、国、地方自治体、さらに国民に求めたことだ。政府はこの最終報告を基に「南海トラフ巨大地震対策大綱」をまとめる。

南海トラフ巨大地震とは、駿河湾から九州沖に伸びる南海トラフ(深さ約4000㍍)沿いを震源域にして連動する地震で、死者は最大で32万3000人、経済的損失は約220兆円になるとみられている。南海トラフ沿いでは、80~150年間隔でマグニチュード8クラスの自沈が発生している。

この南海トラフ巨大地震の予測については、WGの下に設けられた調査部会が検討してきた。過去に南海トラフを震源にした地震を詳細に検証した結果、前兆現象を絞り込むことなどが難しく「現在の科学的知見からは(地震直前の)確度の高い予測(=予知)は難しい」と結論付けた。

このため、WGは、被害を軽減するために「事前防災」の必要性を強調した。報告には具体策が数多く盛り込まれているが、注目されるのは、各家庭での備蓄を従来の「3日分」から「1週間分以上」にするよう求めたことだ。備蓄するのは、食糧、水、乾電池、カセットコンロ、簡易トイレなどだ。さらに、避難所への収容に「トリアージ」(選別)を採用するよう提案している。「トリアージ」は救急医療の現場で採用されている方式で、重傷者から優先して治療し、軽傷者は「後回し」にするやり方だ。巨大地震では、被災者が避難所に殺到し、機能がマヒする可能性が強いためで、自宅の被害が軽微な被災者には帰宅を促すことになる。

このほか、自治体の防災行政無線に加え、携帯電話やスマートフォンで広がっているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用する情報伝達手段の多重化や、企業の生産活動への影響を減らすために、流通体制の複数化なども盛り込まれた。

これまで巨大地震対策は、「地震予知は可能」という前提で考えられていたため、「発想を大きく変える必要がある」(ジャーナリスト)という。「事前防災」は、家庭での食糧備蓄の増加など現実にはハードルが高いとみられるが、このジャーナリストは「要は『覚悟が必要』「備えあれば憂いなし」という当たり前のことを強調したといえる」と説明している。