対談:「減災」進め 安全な国づくり

4月7日付け公明新聞に『かがやきトーク2012「減災」進め 安全な国づくり』と題して掲載された、関西大学 河田惠昭社会安全学部長・教授との対談です。「減災」という考え方を考案された河田先生に「防災教育のあり方」や「学校の耐震化」、「防災や減災を考えたまちづくり」などについてお話を伺いました。

 

関西大学の河田惠昭社会安全学部長・教授と赤羽かずよし党兵庫県本部代表代行
関西大学の河田惠昭社会安全学部長・教授と赤羽かずよし党兵庫県本部代表代行

 

【公明新聞より】

わが国に甚大な被害をもたらした東日本大震災。歴史上、最大級といわれる巨大災害は、防災から減災重視への転換を、私たちに迫ることになりました。今後、安全な国やまちづくりを進めるためには何が必要か。災害の専門家で東日本大震災復興構想会議の委員を務めた関西大学の河田惠昭社会安全学部長・教授と、阪神・淡路大震災を経験し、被災者の生活再建支援に一貫して取り組んできた赤羽かずよし党兵庫県本部代表代行(次期衆院選予定候補=兵庫2区)とが、語り合いました。

 

復興へ力ある政治家必要 河田
国民に最も近い所で働く 赤羽

被災者を助けた生活再建支援法

 

赤羽かずよし赤羽かずよし(前衆院議員) 17年前の阪神・淡路大震災では、私自身も被災しましたが、復旧・復興の過程で痛感したのは、「人間としての尊厳が守られなかった」ということでした。立派な一国民として生きてきた多くの人が、一瞬にして自宅を失ったのに、国から「私有財産なのだから自力で再建すべきだ」と突き放されたのは、その象徴的な出来事です。

 

以来、災害が起きた時に、「人間としての尊厳をどう守るか」が、私の政治家としてのライフワークになりました。時間はかかりましたが、2007年秋に、自宅再建に公的資金を使えるようにした、「改正被災者生活再建支援法」を成立させることができました。

河田惠昭学部長河田惠昭学部長 赤羽さんが、被災者生活再建支援法の改正といった災害法制の改善に大変熱心に取り組んできたことは、よく承知していますし、各方面からも話を聞いています。私は、新潟県中越沖地震の直後に現地に入り、さまざまな助言を行ったのですが、ちょうど改正被災者生活再建支援法が成立したおかげで、随分と助かった被災者の姿を見てきました。

 

残念ながら、1年前に東日本大震災が起きました。これから、がれきの処理や生活再建など山積する課題を一つ一つ解決していくためには、被災者の観点に立って一生懸命に、しかも継続して汗をかく政治家が必要です。復旧・復興の遅れを見るにつけ、リーダーシップを持った政治家の必要性を感じざるを得ません。

 

赤羽 実は、東日本大震災での改正被災者生活再建支援法に基づく支援金の支給が3月26日現在、22万件を超え、支給金額も2100億円に達していると聞きました。もしこの法律が以前のままなら、使い道が限定されるだけでなく、所得制限も残っていました。しかし、津波で何もかも流された被災者が、前年度の所得証明書をすぐ用意できるはずがありません。法改正を実現しておいて、本当によかったと感じています。

 

ところで、今回のような巨大災害が起きても、被害を最小限にとどめる「減災」という考え方がより重要になると思いますが、減災は河田先生が考案した学術用語と伺いました。

 

河田 物理的に被害をなくす「防災」という考え方は、津波に備えて築いた防波堤や防潮堤が簡単に破壊されたことから分かるように、巨大災害の前では限界があります。これに対して、たとえ被災しても人命が失われず、被害もできるだけ少なくなるように備え、速やかな復興をめざすのが減災の考え方です。

 

ハード重視の対策からソフト重視の対策への転換ですが、首都直下地震や東海・東南海・南海の3連動地震が発生する懸念が高まっている今、その準備を急がなければなりません。

 

赤羽 津波や洪水による被害予想を地図で示したハザードマップを整備し、その読み方を教えることも重要ですし、逃げることを基本とした防災教育を徹底することなどが大切だと、指摘されていますね。しかし、学校での防災教育について言えば、ほとんど行われていないのが現状です。

 

河田 阪神・淡路大震災後、研究者の間では、防災教育をきちんと行うべきだという結論になったのですが、全く系統的なカリキュラムとして実施されていません。防災についての知識は、社会、理科など各教科の中にバラバラに入っているだけです。

 

一番残念なのは、防災教育の基礎に、「命の尊さ」や「生きていくことの大切さ」を教えるという理念が置かれずに、知識を断片的に学び、防災訓練を繰り返すだけになっていることです。

 

弱者守る“地域の絆” 河田
学校の耐震化を加速 赤羽

防災教育が「釜石の奇跡」生む

 

赤羽 それに、学習指導要領の最新の改定では、防災教育などに充てることのできた総合学習の時間が大幅に減らされ、防災教育の充実とは逆行する動きになっています。

 

河田 全くその通りです。今回の津波で、学校にいた生徒が犠牲にならなかった釜石東中学校がメディアによって「釜石の奇跡」と伝えられていますが、この学校が日ごろから防災教育に熱心に取り組んできたことは見落とされがちです。私がセンター長を務める「人と防災未来センター」などが毎年開いている「ぼうさい甲子園」で、3年間も連続した受賞経験もあるのです。

 

赤羽 学校といえば、公明党は、全国の学校施設の耐震化を大きく進めてきました。当初、国は耐震化率の実態さえ把握していませんでしたが、調査をさせると約45%しかないことが分かりました。そこで国庫補助率を引き上げるなど、一気に加速させた結果、耐震化率は現在では80%を超えています。学校は、災害時には避難場所として地域の拠点になりますから、耐震化率の向上は、生徒だけでなく地域住民の命を守ることにもつながります。

河田
 公明党大阪府本部は、非常時の通信手段の確保や自家発電施設など、学校の防災機能を調査し、不十分な実態を浮き彫りにしましたが、大変、意義のあることです。避難所は、安全な空間を提供するだけでなく、防災機能がきちんと備わっているかどうかが重要だからです。今後は、情報拠点となって、男女別トイレや更衣室、和室の確保、バリアフリー構造の実現など、災害時に女性や災害弱者を守れるように、施設の改善を進めていただきたいと思います。

赤羽
 現在、全国の至る所の自治体で高齢化が進んでいます。東日本大震災では高齢者が集中的に犠牲になりましたが、これを教訓として、防災や減災を含めたまちづくりが自治体にとって大きなテーマになると思います。

 

河田 社会の弱い箇所を放置すれば、災害時には、そこが集中的な犠牲を払うことになります。こういう構図を変えなければなりません。そのためには、これまで以上に人と人の結び付きを強固にしたコミュニティーづくりが重要です。東日本大震災では、幼児を背負って避難するなど、中学生が随分、活躍しました。例えば、地域の防災訓練を、中学校と共同で行っていれば、災害の時に役立つと思います。

 

一方で、国土全体について言えば、東京一極集中は効率的な半面、リスクにもろいという問題を抱えています。これは国政レベルで考えるべき課題ですので、ぜひ赤羽さんに活躍してほしいと期待しています。

 

赤羽 ありがとうございます。公明党は国民に最も近い場所で働いている政党です。断固、国民生活を守るために頑張ります。

 


かわた・よしあき 関西大学社会安全学部長・教授。阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長。専門は巨大災害、危機管理など。京都大学教授、同防災研究所長、東日本大震災復興構想会議委員など歴任。工学博士。著書に『津波災害』など多数。大阪府出身。66歳。

 

あかば・かずよし 党東日本大震災復興対策本部事務局次長、同兵庫県本部代表代行。1983年、慶應義塾大学法学部卒。三井物産勤務を経て、衆院当選5回。財務副大臣、衆院国土交通委員長など歴任。高校時代はラグビー全日本選抜で活躍した。神戸市在住。53歳。