◆走り出したリニア中央新幹線構想

JR東海は東京(品川)―名古屋間を約40分で結ぶリニア中央新幹線のルートと中間駅の位置などを正式に公表した。全長約286㌔で86%にあたる246㌔がトンネルという「地下新幹線」だ。総工費は約9兆円。JR東海は2027年の開業を目指し、今年度中に国の認可を得て、来年夏の着工予定という。経済効果などに期待は膨らむが、ハードルも高そうだ。

リニア中央新幹線は東京と名古屋を結び、途中駅は相模原(神奈川)、甲府(山梨)、飯田(長野)、中津川(岐阜)に建設される。品川、相模原、名古屋は地下駅。品川駅は地下40㍍以深の「大深度地下」に建設するため、大深度地下利用法が適用され、地上の用地取得などは必要がない。料金は現在の東海道新幹線ののぞみより700円高い1万1500円程度に抑える予定だ。

この新幹線構想が異色なのは、建設経費を全額JR東海が賄うことだ。全国新幹線鉄道整備法に従えば、国から補助金を受けられるが、他の地方の整備新幹線が先行するため、着工時期が遅れる可能性もあり、JR東海は独自に資金調達する道を選んだ。中間駅の建設費用も地方自治体に頼らず、JR東海が負担。発券機、待合室や売店は設けず、ホームとベンチ、トイレ程度の簡素なものにする予定だ。「駅の地元に費用負担してもらうと、注文が多くなる」(JR東海関係者)からと言われている。

経済効果は品川―名古屋開業で10兆7000億円と見られるほか、「インフラ輸出の武器」(菅義偉官房長官)になるとの期待もある。「東京五輪に次ぐ経済再建の起爆剤」(経済界)と夢が膨らんでいる。

しかし、机上の計算どおりに進むかは疑問視する向きも少なくない。まずは採算だ。8割以上がトンネルのうえ南アルプスの下を通るため、難工事になるのは確実で、建設費が膨らむ可能性がある。その場合、金利負担もかさみ、JR東海の負担が過大になってしまう。さらにリニアモーターカーは既存の新幹線に比べ、消費電力は3倍。原発再稼動の先行きが不透明な中で、この電力をどう賄うかも難題だ。さらに、「インフラ輸出の武器」とはいえ、リニアモーターカーは上海ではドイツの技術で実用化されている。「リニア輸出はそう簡単ではない」(経済ジャーナリスト)という。

そもそも「需要があるか」という疑問もある。経済ジャーナリストは「地下トンネルが大半で窓からの景色を楽しめないので、観光客の利用は少ないだろう。IT技術が進み、テレビ会議などはさらに広まるから出張が少なくなるのは確実だ」と指摘する。「夢」の実現にはなお課題が多そうだ。